山梨県とインドネシアをつなぐ架け橋的な存在として県のPRや住民の悩み解決に奔走
2016年にJETプログラムのCIR(国際交流員)として、インドネシアから来日したファドリーさん。山梨県庁で県の海外向けPRに携わったあと、現在は山梨学院大学で留学生支援を行うほか、県内で暮らすインドネシア人や甲府市教育委員会からの相談にも対応している。
約9年間山梨県で暮らすファドリーさんに、外国人が働きやすい地域を目指す取り組みや、県の魅力について話を伺った。
暮らしやすくて東京にも近いのが山梨県の魅力
――ファドリーさんと山梨の関わりについて教えてください
2016年にJETプログラムのCIR(国際交流員)として来日してから、約9年間山梨県で暮らしています。最初は山梨県庁の国際観光交流課で、インドネシアをはじめ、マレーシア、ベトナム、シンガポールなどの東南アジア諸国との連携業務を担当しました。
中でも、山梨県とインドネシアのジョグジャカルタ特別州は友好協力関係を結んでいたので、農業・観光分野を中心に、人材交流や技術研修、観光PRなどの取り組みに携わりました。
その後は山梨学院大学に勤務し、現在は学生センターで留学生の生活支援を行なっています。また、インドネシア人から生活に関する相談を受けたり、地域の人たちにインドネシアの文化を知ってもらうイベントを企画したりしています。

――山梨県に来た当時の印象は
正直に言うと、「田舎だな」と感じました(笑)。私の出身地であるバンドンは都市部で、深夜でも明かりが灯り、多くの人でにぎわっています。一方、国際交流協会の寮周辺は夜7時になると人通りも車もほとんどなく、シーンと静まり返っていました。東京での研修を終えて来たばかりだったので、「ここも本当に日本なのか?」と驚いた記憶があります。
また、来日したのは8月で、富士山に雪が積もっていない時期だったため、最初はどの山が富士山なのかわかりませんでした(笑)。

――山梨県の魅力は
やはり「暮らしやすさ」と「東京へのアクセスのよさ」です。山梨県からは東京行きのバスや特急電車がたくさん出ているので、2時間以内で行くことができます。そのため、平日は落ち着いた環境で仕事や勉強に集中し、週末は東京で遊ぶというスタイルが可能です。家賃も都心と比べて安く、通勤・通学時の混雑も少ないのが魅力ですね。
自然環境も豊かで、河口湖や甲府市にはモスクもあり、ムスリムにも暮らしやすい土地です。また、交通量が少なく静かなので、子育てにも適しています。
日本語を話せても互いの文化を理解するには時間がかかる

――どんな相談を受けることが多いのか
仕事や宗教に関する相談がほとんどです。仕事については、技能実習生や特定技能生から「日本で長く働くにはどうしたらいいか」という相談が多く寄せられます。また、就職活動中の留学生や技人国の在留資格を持つ人からは「就職先がなかなか見つからない」という悩みもよく聞きます。
宗教面では職場に関する悩みが多く、「礼拝スペースが用意されていない」「金曜の礼拝に参加したいが休みが取れない」といった相談がよくあります。これは、企業側の理解不足が原因の場合もあれば、本人が事情をうまく伝えられていないケースもあるようです。そのほか、子育て中の家庭からは、学校での給食や礼拝についての相談が寄せられることもあります。
――こうした課題にどのように関わっているか
当事者として直接介入することはできませんが、県の国際交流センターなどでインドネシアの文化や宗教に関する講座を開き、情報を発信しています。
また、私自身も山梨県で暮らす外国人の1人として地域の活動に参加し、相互理解の場を作るよう心がけています。例えば、子どもが通う学校の読み聞かせ会では、インドネシアの文化やイスラム教を紹介する本を読んだり、英語での読み聞かせを行なったりしています。
こうした取り組みを通じて、「あなたたちの周りにも私のような海外出身者がいるので、この機会に日本以外の国や文化にも目を向けてほしい」と伝えています。

――変化を感じたエピソードは
身近な範囲の話ですが、息子が所属する少年野球チームの保護者会で、徐々に私たちムスリムのことを理解していただけるようになったと感じています。
そのきっかけの一つが、毎年冬に行われる、皆で豚汁を作って食べるイベントです。これまでは「私はムスリムなので食べられませんが、皆さんは気にせず召し上がってください」とお伝えしていました。すると、最近では保護者の方々が配慮してくださり、私たち家族の分を最初に取り分けたあとに豚肉を加えてくれるようになりました。
また、保護者同士の食事会でも、以前はアルコールを飲まない私にもほかの方と同じ金額が請求されていましたが、卒団式後の食事会では「お酒を飲まない人は食事代のみ」という形に変わりました。
こうした変化が起こるまでに、約7年かかりました。日本語が話せる私でもこれだけの時間が必要だったので、言語に不安のある人にとっては、環境を変えることはさらに難しいのではないかと感じています。

長期的に働きたいなら「最初に条件を示す」ことが大切
――今後力を入れていきたいことは
企業向けに、ムスリムの文化や雇用のポイントを伝える勉強会を開催したいです。日本企業の求人票を見ていると「ムスリム歓迎」と書かれていながら、実際には礼拝ができないなどの条件が記載されていることがあります。こうした求人を見ると、私は「最初からムスリム以外の人を募集した方がいいのではないか」と感じてしまいます。
なぜこのようなことが起こるのかというと、企業側がムスリムの文化や習慣について十分に理解していないことに加え、実際に日本で働いている人たちが礼拝や食事制限などの希望を曖昧にしていることも一因ではないかと考えています。
私は、雇用する企業も、働くインドネシア人も、最初の段階でお互いの条件や希望を明確に伝えることが大切だと思います。それが長期的な雇用関係につながり、双方にとってよい結果を生むはずです。

――日本で暮らしたいと考えるインドネシア人へメッセージを
山梨県は自然豊かで渋滞も少なく、非常に住みやすい地域です。家賃が安くて東京へのアクセスもよく、生活と遊びのバランスが取りやすい場所だと思います。
また、私のような外国人が増えてきたことで、学校での給食対応など、多様な文化への理解も進みつつあります。こうした前例があることで、ほかの地域でも同様の対応が期待できます。
日本で長く暮らしたいと考える人にとって、山梨県はきっといい選択肢になると思います。
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