全国各地で左官・土間工事を手掛けるモノリスグループの株式会社川村工業は、ベトナム、インドネシア、スリランカの3ヵ国から外国人材を採用している。実力主義を掲げるこの会社では、勤続年数や資格に応じた手当の支給など、個々のスキルアップが直接給与に反映される体制を構築している。
日々業務に励む外国人たちを現場の第一線から見守り、厳しくも温かく指導する代表取締役の川村 篤さんに話を聞いた。
お互いが切磋琢磨して高め合えるよう多国籍の人材を採用

――外国人の採用を始めた経緯は
当社では10年以上前から技能実習生の受け入れを始め、現在は特定技能を含めて30名以上の外国人材が働いています。
外国人の採用には以前から興味があり、20年くらい前に中国の日本語学校を視察したこともありました。ただ、当時は日本の人材が潤沢だったこともあり、外国人材を入れる必要性をあまり感じませんでした。
しかし、2005年に元一級建築士が建物の構造設計を偽装した「姉歯事件」が起こり、さらに2008年にリーマンショック、2011年には東日本大震災が発生。これらの影響を受け、日本の建設業は大きく低迷しました。業界全体が谷底に沈んだような状況に陥りましたが、そんな時だからこそ「5年後、10年後には再び建設業の需要が高まり、それに伴って人材も必要になる」と考えるようになりました。
そんな中、ある監理団体がベトナムの送り出し機関を視察するというので、私たちも同行させてもらいました。現地には「日本で働きたい」という思いを持つハングリー精神旺盛な技能実習生たちがたくさんいて、直感的に「この国の人材はいい」と思いました。
今後は外国人とともに働く会社にしていくべきだと感じた私たちは、2013年に技能実習生の受け入れを開始。まずはベトナムから始め、その後はインドネシアやスリランカに裾野を広げています。
――外国人材に対する現場の反応は
職人の中には、当初は「言葉が通じないのでは」「実力的にどうなのか」と不安を抱く人もいました。ベテランになるほどそうした考えの人が多く、私自身も言葉の面が心配でした。
しかし、実際に彼らと働いてみると問題なく意思疎通ができたし、現場の指示も素直に聞いてくれました。お金を稼ぐために海を渡る覚悟を持っているので、仕事に対する熱意が違いましたね。正直なところ、日本人の若者より真面目ですし、遅刻や言い訳をしない点も信頼できます。仕事の覚えも早く、1年経てばだいたいのことができるようになるので、いなければ困る存在になっていきました。彼らは仕事に対する実力で「自分たちは必要な人材だ」と示したのです。

――どの国の人材を中心に採用しているか
最初はベトナムが中心でしたが、約3年前からはインドネシアの実習生を採用しています。
当初来てくれたベトナム人は非常に優秀で、日本語能力にも問題がなかったのですが、三期生からはそうした人材を確保するのが難しくなってきました。大きな理由は、契約していた監理団体の担当者が多忙になり、日本語教育などの対応が十分にできなくなったことにあります。また、日本全体でベトナム人材の需要が高まり、送り出し機関の教育が間に合わない状態になっていました。
さらに、あとから来た実習生たちが同じ国の先輩の給与明細を見て、「ここにいれば自動的に先輩たちと同じ待遇になれる」と思うようになってしまったのです。先輩たちは実力で今の地位を勝ち取ってきたのに、彼らは努力をせずに同じ立場まで行けると勘違いをしていました。そうした考えを改めてほしいという意味もあり、実習生の受け入れ国をインドネシアに切り替えました。
自分の国以外からも実習生が来たことで「実力がなければこの会社に残ることができない」という危機感を持ったのか、その後は彼らの勤務態度も引き締まり、お互いが競い合いながら仕事をする空気が生まれました。また、共通語が日本語になったことで、全体の日本語レベルも向上しましたね。
多国籍の人材を採用することは、プロ野球の育成制度に似ていると思います。球団は各地の学校や野球チームで活躍した選手を引き抜き、結果を出せば1軍に上げますが、芽が出なければ戦力外通告をして若い選手と入れ替えます。企業の採用も同じで、さまざまな国からレベルの高い人材を採用して競い合わせることで、優秀な人材を育てていけるのではないかと考えています。

日本語レベルや左官の技術が給料に反映される
――採用の仕方は
基本的には現地で面接し、質問を通じて候補者の顔つきや話し方、しぐさなどを見ながら、私の勘でピンと来た人を採用します。
もう一つの方法として、当社で働く外国人に転職希望者を紹介してもらうこともあります。出張先で知り合った外国人が彼らの待遇を聞いて「川村工業に転職したい」と言ってくることがあるので、外国人労働者の雇用枠が余っていれば面接し、優秀な方であれば採用します。その際、紹介者には紹介料の10万円を、転職者には入社支度金の10万円を支払います。20万円で確実に1人を採用できますし、当社で働くスタッフに還元できるので、双方にとってwin-winの方法だと思います。
――会社で設けているサポート制度は
住宅サポートとして、社員寮を用意しています。実習生には家賃・光熱水費込みで1万5,000円の寮に住んでもらい、ここで日本の生活ルールなどを教えます。特定技能生は自分で部屋を借りられますが、家賃無料・光熱水費5,000円のシェアハウスタイプの寮もあります。
また、自動車免許を取得した人にはかかった費用を会社が負担するほか、社用車や高級バイク、トゥクトゥクなどを自由に貸し出します。月2~3万円の運転手当も出るので取得を希望する人も多く、現在は5名のベトナム人が免許を持っています。
さらに最近では、特定技能生が育休を取得した実例もできました。


――給与面での制度は
スキルアップするほど給料が上がるように、さまざまな手当を支給しています。一つは勤続年数に応じた手当で、3年の実習期間を終え、4年目から特定技能として働く人には月5,000円を支給します。長く働いてくれている人を優遇するためにこの手当を設けていますが、中途採用でも古参社員と同等のレベルで仕事ができる人に対しては、例外として基本給を同じ額にしています。
もう一つは、取得資格に応じた手当です。国家資格である左官技能士3級や、JLPT(日本語能力試験)のN4やN3を取得している人には、月5,000円を支給します。他業種から転職した人も日本語レベルに応じた給料で働くことができますし、当社で働き続ける人にとっては勉強のモチベーションアップにつながります。実際、外国人材の8割が1年でN4を取得し、中には1年でN3まで取った人もいます。
やる気がある人が上を目指せる環境を作りたい
――今後の展望は
一期生のベトナム人が育ってきており、最近は左官技能士1級や特定技能2号の試験に挑戦する人も出てきました。これからも彼らの自主性を重んじながら、やる気のある人が目標達成に向けて頑張れる環境を作っていきたいです。
また、ベトナムやインドネシア以外にも採用の目を向けて、実力があれば誰でも上を目指せる会社にしていきたいと考えています。先日はスリランカで新たに6名の技能実習生を採用したので、これまで後輩のポジションだったインドネシア人も先輩になります。上が下の面倒を見つつ、お互いが切磋琢磨して高め合える職場を目指していければと思います。
――日本で働きたいと考えるインドネシア人にメッセージを
まずは日本語と日本のルールをしっかり覚えてください。特に日本語をしっかり話せて理解できれば、お互いに伝わらない、わからないといったストレスが軽減できると思います。仕事は私たちが一から教えるので、真面目に取り組む姿勢がある人にぜひ来ていただきたいと思います。
