日本の料理文化や飲食店の経営を学ぶ機会を作り独立を目指す外国人の夢をサポート

特定技能制度が始まる前から、外国人材の採用に注目していた桜井寛さん。「飲食業を通じて日本と海外の人材交流を進めたい」という思いのもと、外食業界における外国人の活躍の場を広げてきた。
現在は株式会社エムアンドオペレーションの代表取締役、そして2018年に設立された株式会社nomunoの取締役として、日本やインドネシアで飲食店を運営している。そんな桜井さんに、外国人が日本の料理文化を学ぶための環境づくりや、特定技能2号の取得に向けた支援体制について伺った。
「大変でも働きたい」という意欲がある人を採用

――外国人の採用を始めたきっかけは
19年前に採用コンサルティング会社を設立したことをきっかけに、「飲食業を通じて日本と海外の人材交流を進めたい」という思いを持って外国人採用を進めています。
当時の日本の飲食業界は非常に閉鎖的で、外国人が料理を学ぶために日本で働くことはほぼ不可能でした。そのため、「海外のオーナーの寿司屋で学んだ」というような、本当に日本料理を学んだかどうかわからない人が増えていたのです。こうした状況を変えたいと思い、外国人が日本の飲食店で働けるしくみを作りたいと考えるようになりました。
ただ、当時はまだ特定技能制度がなく、外食業で外国人を採用するのは難しい時代でした。そこで私は自ら店舗を運営し、その中で外国人を採用することにしました。
まずは技人国での採用を目指しましたが、外食業は単純労働だと見なされやすく、何度も在留資格の許可が却下されました。しかし、私たちの店舗は季節や仕入れ状況に応じてメニューを変え、幅広い食材を扱うため、高い調理技術やマネジメント力が必要です。行政書士とともに何度も入管に足を運び、丁寧に説明を重ねた結果、技人国での採用を正当に実現することができました。現在は特定技能制度を活用しながら採用を進めています。
――採用の基準は
主に2つのポイントを重視しています。
1つ目は、お金が目的ではないこと。志望動機で「お金を稼ぎたい」と答えた人には、正直に「ほかのお店や業種の方がいい」とすすめています。日本の飲食店は基本的にハードですし、飲食より給与や待遇がいい仕事もあります。私たちもできる限りいい条件で働けるように制度を整えていますが、お金だけが目的であれば、当社である必要はないと考えています。
2つ目は、日本に来る目的が明確かどうか。面接の始めに、私は必ず「うちはめちゃくちゃ大変だから、やめた方がいいよ」と言うんです(笑)。それでも働きたいと言ってくれる人を採用しています。
当社が運営する店舗は繁盛店を目指しているので、ほかの飲食店よりも忙しいと思います。特に羽田空港にある「すぎのこ」は、24時間営業で朝から晩までお客様が絶えず、1日中動きっぱなしの日もあります。そういった現場で長く働くには、「将来自分のお店を持ちたい」や「本気で日本の料理を学びたい」といった、明確な目的がないと苦しくなってしまうと思うんです。
逆に目的がハッキリしていれば、大変な環境でも頑張れるし成長も早い。特に独立を目指す人は、夢に向かって努力する覚悟を持っているので、積極的に採用しています。

独自のテストを作成し2号取得をサポート
――外国人材へのサポート体制は
エムアンドオペレーションとnomunoの両方で、学びの機会を設けています。その一つが、飲食店の運営に必要な知識を学べる「マンスリーテスト」です。原価計算、人時生産性、季節指数などをテーマに、毎月問題を配信しています。テストは、基本的な説明と例題を読んだうえで問題に取り組める構成となっていて、例えば「歩留まり計算」の回では、「歩留まりとは何か」「どう計算するのか」といった解説と例題を示してから問題を出題します。
私は外国人スタッフ全員に特定技能2号を取ってほしいと思っていて、そのための学習機会として約1年前にスタートさせました。外食業の2号の試験はものすごく難しいのですが、その内容は実際に飲食店を経営するうえで必要な知識です。そうしたことを踏まえ、試験対策としてはもちろん、そうでなくても現場で役立つような内容にしています。
そのほかにも、エムアンドオペレーションでは「視察費の補助」として、ほかの飲食店に行ってレポートを出した一般社員には月に5,000円の補助金を出しています。nomunoでは、日本の文化や言葉、飲食店で使う専門用語などを学べるような外国人向けの研修を計画しています。

――学びの機会づくりに力を入れている理由は
日本の飲食店は世界の中でもかなりレベルが高いので、外国人スタッフにもその感覚を学んでもらいたいと考えています。
チップ文化がある海外と違い、日本ではどれだけサービスをよくしても給料に大きく反映されることはありません。それでも日本の料理人たちは、盛り付けをもっと美しくしようと技術を磨いたり、丁寧な接客を心がけたりと、お客様に喜んでもらうために努力を重ねています。こうした、自分の損得に関係なく技術やサービスを追求する姿勢こそが、日本の料理文化のすばらしさだと思っています。
この感覚をより深く学んでもらうために、私やほかの役員が外国人スタッフと一緒に食事に行き、本物の和食文化を体験してもらう機会も作っています。「天ぷらの技術を学びたい」という子がいれば、カウンターのある天ぷら屋に連れて行って職人の技を目の前で見せますし、「うなぎを食べたことがない」という子がいれば、うなぎ屋に行って関東と関西での調理法の違いを教えたり、うなぎをさばく専用の包丁について説明したりしています。

“初心”を忘れずに努力してほしい
――外国人スタッフに伝えていることは
日本に来たばかりの頃の気持ちを忘れないように、入社初日に“初心”という言葉を教えます。日本には、「物事を始めた時の謙虚で真剣な気持ちを持ち続けることが大切だ」という意味を持つ“初心忘るべからず”ということわざがあります。この言葉を説明したうえで、「自分がなぜ日本に来たのか、将来どうなりたいのかという今の気持ちをメモに残しておいてほしい」と伝えています。
この“初心”こそが、最終的に彼らのやる気を支えると思うんです。私たちがいくら励ましたり、学びの機会をつくったりしても、実際に頑張るのは本人なんですよね。だからこそ、このメモは自分で自分を支える“お守り”として持っていてほしいなと。「答えは自分の中にあるんだから、困った時はそれを見てね」という思いを込めて指導しています。

――外国人材に期待していることは
彼らに期待しているのは、自分の店や会社を持つという夢に向かって頑張ってほしいという1点だけです。夢を持っているメンバーと一緒に働くことは、日本人にも刺激になりますし、お互いのモチベーションアップにもつながります。
だからこそ、外国人のスタッフたちにはこれからも上を目指してもらいたいし、最終的にはマネージャーになってほしいですね。
――日本で働きたいと考えるインドネシア人にメッセージを
せっかく日本で働くのなら、強い意志と目的を持って来てください。今は世界中に働くチャンスがあり、日本より給与や待遇のよい国も少なくありません。そんな中で「なぜ自分は日本を選んだのか」という理由をハッキリさせておくことが大切です。
理由がしっかりしていれば、つらいことがあっても乗り越えられますし、日本での経験もより深く価値あるものになるはずです。私たちも、そうした強い気持ちを持ってやって来る人を全力で応援します。
