更新日2025年04月30日
特別養護老人ホーム はなみずきで働くサムスルさん

33歳で製造業から介護業へ転身。利用者の心情に寄り添いながら彼らの生活をサポートする

サムスル・ムアリプさん
(SAMSUL MUARIP)
1989年生まれ ジャカルタ出身

再び日本で働くために特定技能のビザを取得

高校卒業後、大学に通いながらインドネシアの工場で働いていたサムスルさん。彼が生まれたジャカルタには日系企業が多く進出しているので、日本は身近な存在だった。

2017年には技能実習生として来日し、愛知県豊田市にあるシンナー工場で3年間勤務。技能実習期間を終えた後も「また日本で働きたい」という思いがあったが、当時はコロナ禍で諦めざるを得なかった。

チャンスが訪れたのは、その2年後のことだ。ジャカルタで勤務していた工場との契約期間が切れ、次の就職先を探すことになった。

「若い人が多いインドネシアでは、30歳を過ぎると新しい勤め先を見つけるのが難しくなります。どうしようかと考えていたタイミングで特定技能制度を知りました。どんな仕事でもいいのでまた日本に行きたいと思っていた僕にはまさにチャンスでしたね」

最初は試験が比較的簡単な農業のビザを取得したが、履歴書を応募しても返事はゼロ。他の業種で働けないか組合に相談したところ介護の仕事を勧められ、2022年から埼玉県にある「特別養護老人ホーム はなみずき」で勤務することになった。

時には“優しい嘘”を使い、認知症の利用者を安心させる

工場での勤務歴が長かったサムスルさんにとって、介護の仕事はとにかく未知の世界だった。

何よりも難しかったのが利用者とのコミュニケーションだ。マニュアル通りに製品を作る製造業とは違い、介護業では相手の気持ちを考えながら仕事をすることが重要になる。利用者との対話を重ねながら、その時々で判断をしていかなければならない。

「ルーティーンワークができない仕事なので、利用者との接し方が毎日のように変わります。今日はスムーズだったのに、明日になると同じことをしてもうまくいかないことも多いです。現場で覚えていくことが多く、最初は本当に『厳しいなあ……』と思いました。先輩たちに何度もコツを聞いて、少しずつ慣れていきました」

先輩からの指導や勉強会で学んだことを実践する中で、“優しい嘘”という会話テクニックも身に着けた。これは、認知症によって記憶が混同している利用者の言うことに対して、否定をせずに話を合わせて受け答えをすることで相手の気持ちを落ち着かせる方法だ。

例えば、財布を持っていないはずの利用者が「私の財布がない!」と探していたら、「元から持ってきていません」と指摘するのではなく、「事務所で預かっているので心配しないで」と声をかける。時には先輩と連携しながら、利用者の不安を和らげるサポートも行う。

愛する娘と妻とともに日本で暮らしたい

サムスルさんが1日の中で一番楽しみにしているのが、家族と通話する時間だ。彼にはインドネシアに住む妻と今年3歳になる娘がいて、毎日1時間半ほどビデオ通話をしている。「1日でも多く娘の顔を見たい」と話す。

今後の目標は、介護福祉士の資格を取って愛する家族とともに日本に住むこと。今年7月に行われる介護福祉士のオンライン勉強会にも参加予定で、資格を取るために歩みを進めている。

「介護福祉士の試験は漢字がたくさん出るし、頭が痛くなるほど難しいです。それでも、家族とともに日本で暮らすために頑張ります。インドネシアには若い人たちがたくさんいますが、日本だけでなくいろいろな国に行き、たくさん経験を積んでほしいですね」

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