2026年03月06日

“地域の居場所”を作れる教室に――山梨・笛吹市日本語教室の事例

山梨県には、2025年6月末時点で24,392人の外国人が暮らしています。県全体で人口減少が続く一方、外国人住民の数は年々増加しており、今後の地域や産業を支える存在としても重要視されています。

そんな彼らが安心して暮らせる環境を作るために、県は2020年度から「山梨県地域日本語教育推進事業」を実施。この事業のひとつとして、市町村が主催する日本語教室の運営支援を行なっています。

現在、県からの支援を受けて日本語教室を開催している市町村は、甲府市や大月市、山梨市、韮崎市などの9つ。今回は、事業の開始当初から日本語教育を実施している、笛吹市の事例を取材しました。

日本語学習を通して住民同士が“ご近所さん”になれる

笛吹市日本語教室は、毎週日曜に笛吹市役所で開催されています。「聞く・話す」力の養成を主に、対話やグループワークを通して主体的に日本語を使う“活動型”の学習を実施しています。

学習テーマは山梨県が開発した独自の日本語教育プログラムに基づき、バスや電車での移動の仕方、交通ルール、台風・地震といった災害への備えなど、生活に必要な日本語を中心に各回で設定しています。また、参加者の要望に応じて、茶の湯体験や山梨の歴史を学ぶ回を設けることもあります。

2025年度の笛吹市日本語教室カリキュラム(一部を抜粋)
1回目 オリエンテーション
2回目 住んでいる地域を知る
3回目 目的地に向かう(街に出る)
4回目 台風や地震に備える
5~7回目 私たちの活動を計画し行う:川中島合戦戦国絵巻に参加する

この教室には、指導に当たる日本語教師だけではなく、「パートナー」と呼ばれる地域住民ボランティアも参加します。彼らは日本語を専門的に教えるのではなく、日本語での交流を通して外国人住民やほかのパートナーたちと地域の魅力や課題について考え、より住みやすい地域づくりを担う役割として位置付けられています。

パートナーは、県による事前研修を受ければ、年齢や経験、外国語能力などに関係なく誰でも参加できます。そうしたこともあり、「多くの人と知り合いになりたい」「勤務先に外国人の同僚がいるので理解を深めたい」といった理由で志望する人が多くいます。

教室の運営をサポートする公益財団法人山梨県国際交流協会の古屋玲子さんは、「日本人が一方的に言葉を教えるのではなく、日本語を通じてお互いの文化や考え方を学び合える場になってほしい。この教室をきっかけにして、“外国人住民の●●さん”が“ご近所の●●さん”という認識になってくれれば」と話します。

現在学習者として登録している外国人住民は73名(2026年1月15日時点)。インドネシアをはじめ、アメリカやイギリス、タイ、中国などの出身者が、「日本人と話したい」「日本語を上手に話せるようになりたい」などの目的から参加しています。

年初めのお題は「年末年始にやったこと」!

今年最初の教室は、1月18日に開催。この日は約30人が参加し、「年末年始にやったこと」をテーマにグループワークが行われました。

まずはグループごとに、各々の年末年始の思い出を発表。武田信玄公を祀る「武田神社」で初詣をした人や、長野県の松本城を見に行った人、夜通しダンスパーティーに参加した人など、それぞれの体験を語りました。

各自の発表から話が広がり、母国の年末年始の過ごし方を紹介し合ったり、「七草がゆ」など日本ならではの文化を学んだりするグループも。母国の習慣を日本語で伝えるために、パートナーに「これは日本語で何と言いますか」と尋ねる人もいました。

最後は各グループの代表が、参加者全員の前で年末年始の出来事を話します。参加者たちは自ら手を挙げ、人前で話すことに緊張しながらも、これまで学んだ日本語で自分の思い出を語りました。

地域のお祭りへの参加や友人づくりの機会にもつながる

最後に、今回の教室に参加していた3人のインドネシア人に教室の感想を聞きました。

左から、ダルさん、フィンさん、ディキさん

ディキ:西ジャワ・バンドン出身のディキです。子どもの頃から日本のアニメが好きで、日本で働くことが夢でした。2024年の7月に技能実習生として来日し、今は農業の特定技能ビザに切り替えるために特定活動中です。

フィン:東ジャワ・トゥルンガレッグ出身のフィンです。外国で働きたいと思っていたところ、友人から「日本は給料が高いし景色がきれい」と聞いて、日本で働くことを決めました。昨年7月に技能実習生として来日し、ディキさんと同じ実習先で働いています。

ダル:東ジャワ・マドゥラ出身のダルです。家族に仕送りをするために外国で働くことを考えており、その中でも規則正しく安全な先進国である日本を選びました。昨年3月から、技能実習生としてとび職の仕事をしています。

ディキ:僕たち3人は、今年度からこの教室に通っています。僕は、同じ会社で働いていたブラジル人の先輩から「無料で日本語を教えてくれる勉強会がある」と勧められたのがきっかけで参加しました。

フィン:僕は、ディキさんから「一緒に勉強しようよ!」と声をかけてもらい、昨年9月から参加しています。

ダル:僕は会社の日本人の先輩から紹介されて、フィンさんと同じくらいの時期から参加しました。最初は、初対面の人と会うのが少し恥ずかしかったなあ(笑)。でも、実際に通い始めたら楽しかったし、日本語を話す自信が付きました。出身国の文化や習慣がテーマになることも多いから、他国の文化を知るきっかけにもなりました。

ディキ:お互いの文化を教え合う中で友だちになり、LINEを交換することもよくあります。日本語でメッセージを送り合うので、そこから文法や漢字を学ぶきっかけになったり。日本語レベルが同じくらいの人も多いので、一緒に勉強する中で「自分も日本語が話せるようになる」と自信がつくのが、この教室のいいところだと思います。

フィン:日本語を学ぶだけでなく、地域のお祭りに参加できる機会があるのもうれしいです。笛吹市秋祭りのメインイベントである「川中島合戦戦国絵巻」に参加できたのが、僕の中では一番の思い出かな。武士の服を着て、「オラー!」とか「えいえいおー!」とかの掛け声を言うことで、“戦国”の気分が味わえたのが印象的でした。

ディキ:あれは僕も一番楽しかった!武士の服はアニメに出てくる剣士みたいで、とってもかっこよかったです。日本語教室に来ていなかったら、このようなイベントがあること自体を知らなかったと思います。

画像提供:笛吹市日本語教室

ダル:僕は教室で出店していた屋台の手伝いをしていたから、合戦には出ませんでした。でも、みんなを応援するのも楽しかった!地域のイベントに参加する機会はなかなかないので、貴重な経験ができました。

画像提供:笛吹市日本語教室

ディキ:この教室でたくさんの経験ができたし、僕は今後も日本語のレベルを上げていきたいから、来年も参加する予定です。次回はまた違ったメンバーで勉強すると思うから、新しい参加者とも友だちになりたいですね。

ダル:僕もです。来年もまだ日本にいますし、日本語ができなければ仕事や生活ができないから、より深く日本語を勉強したいです。

フィン:この教室に来なければ、山梨の文化や日本の伝統文化を知れなかったと思うし、僕もまた参加したいです。ただ、技能実習生として働ける期間がもうすぐ終わってしまうから、それまでに特定技能の試験に合格して、笛吹市で働ける職場を探さないと……。皆とまだまだ一緒に勉強したいから、勉強も就職もがんばります!

山梨県の日本語教室に関する問い合わせ先:y-nihongo@yia.or.jp
担当:公益財団法人山梨県国際交流協会 古屋玲子さん(山梨県地域日本語教育総括コーディネーター)

こんな記事も読まれています