日本の古典芸能・落語を楽しむ
落語は江戸時代(1603年~1868年)に成立したとされる日本の伝統芸能の一つです。他の伝統芸能である能楽や歌舞伎と異なり小道具や音楽を使うことはほとんどなく、語りと身振り・手振りだけで様々な情景を演じる話芸です。扇子と手ぬぐいであらゆるものを表現し、一人で何役も演じ分ける高度な技量を求められます。話の内容に加え落語家ごとにどのような工夫を行っているのかという点も大きな見どころです。
“落ち”がある滑稽話である「落としばなし」をはじめ、親子や夫婦間の情愛を描いた「人情噺」や幽霊や死神などの怪異が登場する「怪談話」など様々なジャンルの話があります。今回はそれぞれのジャンルから定番の話をいくつかご紹介します。
落としばなしの定番・「寿限無」「時そば」
「寿限無(じゅげむ)」とは”寿命が無限で限りないこと”を意味します。待ちに待った子供が生まれた父親が、縁起のいい名前を付けようとお寺の和尚さんに相談に行きます。寿限無をはじめ縁起のいい言葉をたくさん教えてもらった父親ですが、どうしても一つに決められない。そこで教わった言葉を全てつなげて名前ということにしてしまいます。その名前が「寿限無、寿限無、五劫の擦り切れ、海砂利水魚の、水行末・雲来末・風来末、喰う寝る処に住む処、やぶら柑子のぶら柑子、パイポ・パイポ・パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの、長久命の長助」。寿限無(以下略)は名前に込められた願い通りすくすくと成長しますが、長すぎる名前のせいで問題が起きてしまって・・・・・・というお話です。落語の技術の基礎が詰まっていると言われ、この話を最初に学ぶ落語家も多いとか。
「時そば」は江戸時代に営業していた”夜鷹蕎麦”という深夜営業のそば屋台を舞台にした話です。当時の時間の数え方は0時を暁9つとし、そこから2時間ごとに暁8つ、暁7つ、明6つと数えていき、朝4つ(10時)の次は昼9つ(12時)となります。そして夜4つ(22時)からまた暁9つに戻り一日としていました。その暁9つごろにそばを食べに来たある男。かけそばを注文し、店構えに看板に器に味と何から何まで過剰にほめそやします。そしてお会計の時、16文(文は当時のお金の単位。1文=約32.5円) を1文ずつ支払い、8文の時にそば屋に「今何時だい?」とききます。そば屋が「9つ」と答えると、「そうか9つか。じゃあ残りだ」と言って10文、11文と数え、16文になると飛ぶように去っていきました。つまり1文ごまかしたのです。それを見ていた別の男。自分もやってみようと思い立ちます。翌日そばを食べに行くも、いたのは昨日と違う屋台。さらに気が逸っていて夜4つごろに着いてしまい・・・・・・。最初の男と真似した男の対比が特徴的な話です。ちなみに、関西では「時うどん」として親しまれています。
人情話の定番・「芝浜」
「芝浜」は東京都港区のあたり。現在は埋め立てられ公園になっていますが、江戸時代は海に面しており、江戸屈指の漁港として栄えていたそうです。この話の主人公は有能ながら酒好きの行商で魚屋です。酒の失敗で自堕落な生活をしていましたが、妻に怒られて仕入れに向かいます。芝浜の市場まで来たものの、朝早すぎて店が開いていない。ぶらぶらしていると海中に財布が落ちているのを見つけます。中には一生遊んで暮らせるほどの大金が。喜び勇んで家に帰ると飲めや歌えの大騒ぎ。しかし、翌朝になると財布はなく、妻にも「そんなものは知らない、酔って夢でも見ていたのだ」と言われてしまいます。自らの愚かさを恥じた主人公は心を入れ替えて働き、3年後には自分の店を持てるまでになりました。その後、妻が愛する夫のために行動した3年前の真相が語られます。
怪談話の定番・「死神」
「死神」は、やることなすこと失敗続きで今にも自殺しようとしている男の前に死神を名乗る存在が現れ、まだ寿命が尽きていないとしてとある秘術を教えてくれるという話。その秘術とは、寝込んでいる病人の周りにいる死神が見えるようになり、死神が足元にいる時に呪文を唱えることで死神を追い払って患者を救えるようになるというものでした。術を駆使して病人を助け、名医と呼ばれるようになった男でしたが、ある日枕側に死神がいる病人(=もう助からない)の家人に目も眩むほどの大金を積まれ、死神をだまして死ぬはずだった患者を救ってしまいます。その結果激怒した死神から救った病人と男の寿命が入れ替わったことを教えられ、今にも消えそうになってしまった自分の”命のろうそく”の火継ぎに挑むことになるのですが・・・・・・。死神を退ける「アジャラカモクレン、テケレッツのパー」という呪文や最後の演出が特徴的で、音声だけでなく映像や実際の寄席で聞くことがおすすめです。
古典落語は江戸時代~明治時代のころに成立した話が多く、現代の日本人でも内容がわかりづらいものも多々あります。表現の中には現代にそぐわないものがあったりもします。しかしその分当時の風俗や思想を垣間見ることができ、歴史の一端を学ぶことができます。また、現在でも落語家の方々によって様々な新作落語が作り出されています。
Amazon Primeビデオの「寄席チャンネル」や産経新聞の「産経らくご」など落語を視聴することができるサブスクリプションサービスも登場しているため、外出が難しいコロナ禍の休日などに落語を聞いてみるのはいかがでしょうか。
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