インドネシア・レンバタ島の交易が生み出した織物「イカット」
2023.02.28 up

インドネシア・レンバタ島の交易が生み出した織物「イカット」

たばこや塩の歴史・文化を取り扱うたばこと塩の博物館。現在、特別展として「江上幹幸コレクション インドネシアの絣・イカット ~クジラと塩の織りなす布の物語~」が開催中です。本特別展は大きく3つのテーマに分かれており、民族考古学者として30年以上インドネシア東部を訪れ続けた江上幹幸(ともこ)氏が収集したイカット約50点が展示されています。

美しいイカットの意匠と、その背景にあるインドネシア東部の島・レンバタ島に根付いた交易や暮らしの文化をのぞいてみましょう。

イカットとは?

イカットとは、絣(かすり)織りの手法で作られているインドネシアの織物です。絣織りとは、あらかじめ染め分けられた糸を織ることで模様を作り出す手法であり、東南アジアをはじめ日本やアフリカ、南米など世界各地にみられます。

世界共通語となっている「イカット」という言葉は、インドネシア語のikat(縛る、括り、束)からきています。

特別展には、約50点ものイカットが展示されています。

海と山の交易の賜物!レンバタ島のイカット

第1部では、江上氏の主な調査地であるインドネシア東部に位置するレンバタ島のイカットを紹介しています。インドネシア各地にみられるイカットですが、レンバタ島のイカットは、少し変わった成り立ちをしています。

レンバタ島には、捕鯨や製塩・石灰づくりをする「海の民」と、トウモロコシ・綿などの農作物や染料である藍や茜を栽培している「山の民」がいます。この二つの民は、クジラ肉や塩を中心に互いの産物を物々交換する交易で現在まで共存してきました。また、「海の民」は、イカットの材料となる綿や染料である藍や茜を持っておらず、「山の民」は、染色に必要な石灰を持っていません。この交易で必要な材料を補い合って生まれたのがレンバタ島のイカットの特徴です。

海の民のような漁業を営む人々がイカットを織るのは、レンバタ島以外には見られない光景であり、海の民と山の民それぞれで作られるイカットはその文様に特徴があります。

こちらは海の民のイカット。伝統的な意匠であるマンタの文様が入っています。
こちらは山の民のイカット。幾何学的な文様の他に、人の文様が描かれているものもあります。

海の民が生み出す交易の原点

第2部では、海の民であるラマレラ村の村人の仕事であり、交易の原点ともなっている捕鯨や製塩、そして山の民との交易について焦点を当てています。

技術が発展した現代においても、ラマレラ村の漁師たちは伝統的な捕鯨を行っています。漁は、古くから男性の仕事として行われてきました。 最初に、木造の帆船でクジラに近づきます。そして、「ラマファ」という銛手が海に飛び込んで最初の銛を打ちこみます。

銛には綱がついており、クジラが逃げないようにします。(撮影:小島曠太郎)

最初の銛が撃ち込まれた後は、二番銛・三番銛と次々に銛を打ち込み、船員全員が鯨に近づき弱らせた後、最終的には一番銛の銛手が海に飛び込んで包丁で闘い、とどめを刺します。

撮影:小島曠太郎

捕獲されたクジラは、翌日に村の浜で解体されます。漁に参加したメンバーの仕事によって、分配される肉の部位が決められているだけではなく、村人同士で交換することで、男性がいない家庭にもクジラ肉が分配されるシステムができています。こうすることで村人全員が山の民との交易に重要なクジラ肉を手に入れることができるのです。

クジラ肉の分配の様子。(撮影:小島曠太郎)
クジラ肉を受け取る女性(撮影:小島曠太郎)

万能素材!島民のヤシ利用

クジラや塩の他にも、島民の暮らしになくてはならない大事な資源があります。それはヤシです。レンバタ島には、ロンタールヤシ、アレカヤシ、ココヤシ、ゲバンヤシなど何種類ものヤシが自生しています。島民は、用途によって異なるヤシの葉を使い分けます。イカットの括り染めのひもにも不可欠な他、容器、タバコの巻紙、さらには船の帆にも利用されるヤシは、まさに万能素材なのです。

容器やたばこの巻紙まで・・・ヤシの葉はあらゆるものに利用されています。

インドネシア東部の多彩なイカット

第3部は、江上幹幸氏の研究テーマである「巨石記念物(ドルメン・メンヒル)」調査の一環として、彼女が30年以上歩き続けたインドネシア東部で収集した布たちを展示しています。展示されている布たちには、文様や手法など、地域ごとの違いが表れています。

地域別に、多彩なイカットたちが展示されています。絣の技法だけでなく、織りによって描く文様との組み合わせなど、地域によって少しずつ変わります。

日本人にもっと知ってほしい「イカット」

インドネシア・レンバタ島のイカット。そこには、海と山とでお互いを助け合いながら伝統を守り続けてきた島民の暮らしが、美しいイカットとして表れていました。

最後に、博物館の広報担当から今回の特別展へのコメントをいただきました。

「本展では約50点のイカットを展示しています。天然染料の美しさ、動物や人物などの多彩な文様をお楽しみいただけたらうれしいです。見るだけでも楽しめるイカットですが、その背景にある島の人々のくらし、文化を知ると、ますます魅力を感じます。民族資料や写真など、生活文化についての展示も、ぜひご覧いただきたいと思います。」

特別展は2023年4月9日まで開催中。
美しくも力強いイカットの物語に触れてみませんか。

概要
名称:「江上幹幸コレクション インドネシアの絣・イカット クジラと塩の織りなす布の物語」
開催期間:2023年1月21日(土)~4月9日(日)
会場:たばこと塩の博物館
所在地:東京都墨田区横川1-16-3
入場料:大人・大学生:100円/満65歳以上の方(要証明書):50円/小・中・高校生:50円
開館時間:午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日:月曜日
公式サイト:https://www.tabashio.jp/